吉田謙太郎
宅建士・不動産投資家・ライター|筑波大学卒業後、大手不動産会社にて投資用不動産の売買および賃貸営業・投資家へのコンサルティング・自社メディアでの記事執筆などを行う。自身でも社会人1年目(22歳)から不動産投資をしており、横浜市・大阪市・神戸市に区分マンションを4戸運用中(2021年11月現在)。保有資格は宅地建物取引士、マンション管理士、管理業務主任者。(I列)

不動産投資において空室リスクを最小化するために首都圏(1都3県)への投資を考える投資家は多いかもしれません。首都圏の中でも市や区によって空室率は大きく異なるため、「具体的にどのエリアに投資をするか」が空室リスクを最小化するうえでは非常に重要です。本記事では、空室率の観点から首都圏で最も投資候補として有望なエリアを4つ紹介します。

首都圏で空室率が低いエリアベスト4(2021年6月時点)

ホームズが公表している「見える!賃貸経営」によると2021年6月時点において首都圏で空室率が最も低いエリアベスト4は、以下の通りです。

・ 東京都江東区:7.4%
・ 千葉市美浜区:8.7%
・ 埼玉県和光市:9.8%
・ 東京都墨田区:9.8%

一方でそれぞれの都県全域の空室率は、以下のようになっています。

・ 東京都:14.5%
・ 千葉県:20.5%
・ 埼玉県:18.4%

これらを踏まえるとベスト4エリアの空室率は、首都圏の中でも相当低いと評価できるでしょう。

東京都江東区:7.4%

首都圏で最も空室率が低い東京都江東区は、新木場や豊洲などの湾岸エリアを含む区です。ホームズの集計によるとユーザーが賃貸住宅を探すうえで最も多く希望している条件とその割合、最も希望が多い間取りの賃料相場は、それぞれに以下の表の通りです。

<最も多く希望されている条件とその割合>

間取り 賃料 面積 築年数 駅徒歩
1R・1K・1DK 8万~9万円 25~30平方メートル 31年~ 3~5分
58.5% 17.9% 30.2% 21.1% 25.2%

<1R・1K・1DKの賃料相場 ※駅徒歩10分以内か以上かで別集計>

駅徒歩 1R 1K 1DK
~10分 8万8,900円 9万2,800円 11万6,100円
10分~ 9万300円 9万9,900円 10万9,500円

江東区においてメインターゲットは、「単身者」「駅から近い」「やや広めながらも賃料は10万円以内」といった物件の賃貸需要が高そうです。築年数31年以上が希望条件として最も多いことからすると築古の物件でも駅からの距離が近く25平方メートル以上の広さがあれば十分に入居者を見つけることができるエリアといえます。

千葉市美浜区:8.7%

首都圏で2番目に空室率が低い千葉市美浜区は、ZOZOマリンスタジアムや幕張メッセなどがある海浜幕張駅を含む区です。ホームズの集計によるとユーザーが賃貸住宅を探すうえで最も多く希望している条件とその割合、最も希望が多い間取りの賃料相場は、それぞれに以下の表の通りです。

<最も多く希望されている条件とその割合>

間取り 賃料 面積 築年数 駅徒歩
3LDK・4K・4DK 6万~7万円 70~80平方メートル 31年~ 10~15分
34.30% 16.60% 22.50% 28.60% 42.40%

<3LDK・4K・4DKの賃料相場 ※駅徒歩10分以内か以上かで別集計>

駅徒歩 3LDK 4K 4DK
~10分 17万5,900円 データなし データなし
10分~ 18万3,300円 データなし データなし

同区においては、ファミリーがメインターゲットで部屋数が多く面積が広い物件が最も賃貸需要がありそうです。

・ 築年数31年以上が希望条件として最も多い
・ 駅からの近さがさほど重要視されていない
・ 賃料の希望条件で2番目に多いのが15万~20万円(16.2%)

これらを考察すると築古や駅から遠い物件でも部屋数が多いファミリー向け物件であれば十分に入居者を見つけることができるエリアといえるでしょう。

埼玉県和光市:9.8%

首都圏で3番目に空室率が低い埼玉県和光市は、東京都板橋区、練馬区と隣接しており東京メトロ有楽町線や東京メトロ副都心線、東武東上線が通る和光市駅を擁する交通利便性の高い市です。ホームズの集計によるとユーザーが賃貸住宅を探すうえで最も多く希望している条件とその割合、最も希望が多い間取りの賃料相場は、それぞれに以下のようになっています。

<最も多く希望されている条件とその割合>

間取り 賃料 面積 築年数 駅徒歩
1R・1K・1DK 7万~8万円 40~50平方メートル 25~30年 10~15分
41.00% 20.40% 18.20% 17.30% 28.20%

<1R・1K・1DKの賃料相場 ※駅徒歩10分以内か以上かで別集計>

駅徒歩 1R 1K 1DK
~10分 6万5,700円 6万2,900円 データなし
10分~ 4万9,500円 5万9,400円 データなし

同市においては、「単身者」「広い面積がありながら賃料を抑えられるコストパフォーマンスの良い物件」が最も賃貸需要がありそうです。

・築年数30年前後でも十分に賃貸需要がある
・賃料相場が都内23区よりも安い

これらを考察すると築古物件でもコストパフォーマンスが良い(賃料が安く面積が広い)物件であれば十分に入居者を見つけることができるエリアでしょう。

東京都墨田区:9.8%

首都圏で3番目に空室率が低い東京都墨田区は、東京スカイツリーや両国国技館などの観光名所を含む区です。ホームズの集計によるとユーザーが賃貸住宅を探すうえで最も多く希望している条件とその割合、最も希望が多い間取りの賃料相場は、それぞれに以下の表の通りです。

<最も多く希望されている条件とその割合>

間取り 賃料 面積 築年数 駅徒歩
1R・1K・1DK 8万~9万円 25~30平方メートル 新築・5~10年 3~5分
59.00% 16.40% 31.40% 17.60% 27.60%

<1R・1K・1DKの賃料相場 ※駅徒歩10分以内か以上かで別集計>

駅徒歩 1R 1K 1DK
~10分 8万7,300円 9万1,800円 10万7,300円
10分~ 8万3,600円 9万800円 9万7,200円

同区においては、「単身者」「駅から近い」「やや広めの新築または築浅物件」が最も賃貸需要がありそうです。

・ 面積がやや広め
・ 新築または築浅で駅から近い
・ 賃料10万円以内

これらの希望条件が最も多いことから考察すると賃貸住宅を探すうえで妥協できる点が少ない人が多いエリアといえるかもしれません。

同じエリア内でも物件の構造によっても空室率は異なる

株式会社タスが分析・発表した「賃貸住宅市場レポート 首都圏版 関西圏・中京圏・福岡県版 2021年5月」によると同エリア内でも物件の構造(アパート系かマンション系か)によって空室率が異なることが示唆されています。首都圏においては、1都3県いずれもアパート系物件(※1)のほうがマンション系物件(※2)よりも空室率が高い傾向です。

※1:木造、軽量鉄骨造
※2:鉄骨(S)造、鉄筋コンクリート(RC)造、鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造

また首都圏の中で物件構造の差による空室率の差が最も顕著なのは、神奈川県です。同県では、アパート系物件の空率が首都圏の中で最も高くなっているのに対しマンション系物件では最も低くなっています。投資物件を検討する際は、エリアごとの空室率や賃貸需要のみならず物件の構造も加味したうえで最終的な判断をするのが得策です。

不動産投資において空室は最大のリスク

不動産投資では、主に以下のようなリスクがあります。

・ 修繕リスク
・ 災害リスク
・ 物件価格変動リスク
・ 空室リスクなど

その中でも最大のリスクとなるのは、空室リスクでしょう。なぜなら空室が発生すると収入源となる賃料収入が減少し最悪の場合、賃貸経営が破綻してしまうからです。満室想定時の利回りが高くても空室が多いために満室状態を実現できなければ絵に書いた餅となってしまいかねません。「不動産投資は賃料収入が継続的に入ってはじめて成立する投資スキーム」ということは常に認識しておきましょう。

空室率の低いエリアを選んで空室リスクを抑えよう

不動産投資における最大のリスクとなる空室リスクを抑えるためには、まず空室率の低いエリアの物件を購入すること重要です。需要が高い傾向の首都圏でも空室率の高低はまちまちとなっています。そのためエリア選びを間違えてしまうと空室率を抑えるために首都圏へ投資をしたにもかかわらず結果として空室リスクを顕在化させてしまう事態となりかねません。

エリア選びだけでなく当該エリアの賃貸需要を分析して賃貸需要が長期的に見込まれる物件の特徴を洗い出すことが重要です。丁寧に調査や分析を行うことで「どのような間取りや広さ築年数の物件に投資をするのが最も合理的か」が見えてくるでしょう。