新井智美
トータルマネーコンサルタント
CFPR、一級FP技能士(資産運用)、DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員
個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン住宅購入のアドバイス)の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

個人が一定の寄附金を支払った際には、所得税における税制措置として寄附金控除(所得控除)と寄附金特別控除(税額控除)の2種類があります。適用を受ける際には、併用が認められていないため、いずれか一方を選択することが必要です。今回は、それぞれの制度について詳しく説明するとともに「寄附金制度を使うことでどれだけの減税効果があるのか」についても2020年の税制改正を反映したうえで紹介します。

寄附金控除(所得控除)の概要

個人が特定寄附金を支出した際には、所得税の計算上、寄附金控除(所得控除)の適用を受けることが可能です。その際、以下の計算式で算出した金額を総所得金額から控除することになります。計算式は、「特定寄附金の額の合計額(総所得金額の40%を限度とする)- 2,000円」です。ここでいう特定寄附金に該当するものについては、以下の通りです。

・ 国、地方公共団体に対する寄附金
・ 財務大臣が指定した寄附金(指定寄附金)
・ 特定公益指針法人に対する寄附金
・ 特定公益信託に対し支出した金銭
・ 政治活動に関する寄附金
・ 認定NPO法人に対する寄附金
・ 特定新規中小会社の発行株式の取得に要した金額

(参考)所得控除により還付される額の目安

課税所得金額 400万~600万円 700万~900万円 1,000万~1,100万円
寄附金額 還元金額(単位:円)
1万円 1,600 1,800 2,600
5万円 9,600 11,100 15,900
10万円 19,600 22,600 32,400
30万円 59,600 68,600 98,400
50万円 99,600 114,600 164,400
100万円 199,600 229,600 329,400

課税所得金額以外の所得がないことを前提とし、寄附金控除を受けた場合と受けなかった場合を比較して還付額(目安)を算出しています。

寄附金特別控除(税額控除)の概要

寄附金特別控除(税額控除)については、寄附金控除(所得控除)の対象となる寄附金のすべてが寄附金特別控除(税額控除)との選択制となっているわけではありません。逆に寄附金控除(所得控除)よりも範囲が限定されていることを理解しておきましょう。寄附金特別控除(税額控除)は、所得税額の25%を限度として以下の計算式で算出した金額が所得税から控除されることになります。

・ (税額控除の対象となる寄附金の額の合計額(総所得金額の40%を限度とする))-2,000円×40%
・ (「政党等寄附金特別控除額」の場合は30%)

寄附金特別控除(税額控除)の対象となる控除は、以下の3つです。

・ 政党等寄附金特別控除
・ 認定NPO法人等寄附金特別控除
・ 公益社団法人等寄附金特別控除

(参考)税額控除により還付される額の目安

課税所得金額 400万円 500万円 600万円 700万円 800万円 900万円 1,000万円 1,100万円
寄附金額 還元金額(単位:円)
1万円 3,200
5万円 19,200
10万円 39,200
30万円 93,100 119,200
50万円 143,100 193,100 199,200
100万円 243,500 301,000 358,500 399,200 399,200

課税所得金額以外の所得がないことを前提とし、税額控除の上限額(所得税額の 25%相当額)を算出しています。

これらの控除について「寄附金控除(所得控除)」「寄附金特別控除(税額控除)」のどちらか有利なほうを選ぶことが可能です。

所得税に関する所得控除と税額控除の減税効果は?

では、いったいどれくらいの減税効果があるのでしょうか。ここからは、所得控除と税額控除を選択した場合の差額について2020年の税制改正を加味したうえで比較してみます。モデルケースとして認定NPO法人に対する寄附金10万円を支出した場合を想定し、4つの年収別に比較した結果は以下の通りです。

・ 年収800万円(累進税率20%)の場合
・ 年収1,500万円(累進税率33%)の場合
・ 年収2,500万円(累進税率40%)の場合
・ 年収5,000万円(累進税率45%)の場合

1.年収800万円(累進税率20%)の場合

項目 所得控除を選択した場合 税額控除を選択した場合 (参考)
寄附金を支出しなかった場合
総所得金額(給与所得) 610万円 610万円 610万円
所得控除額※ 210万円 210万円 210万円
所得控除(寄附金控除) 9万8,000円 0円 0円
課税総所得金額 390万2,000円 400万円 400万円
所得税(税額控除前) 35万2,900円 37万2,500円 37万2,500円
認定NPO法人等寄附金特別控除 0円 3万9,200円 0円
寄附金による減税効果額 1万9,600円 3万9,200円

※社会保険料:120万円、生命保険料控除:4万円、扶養控除:38万円、基礎控除:48万円と仮定

2.年収1,500万円(累進税率33%)の場合

項目 所得控除を選択した場合 税額控除を選択した場合 (参考)
寄附金を支出しなかった場合
総所得金額(給与所得) 1,305万円 1,305万円 1,305万円
所得控除額※ 280万円 280万円 280万円
所得控除(寄附金控除) 9万8,000円 0円 0円
課税総所得金額 1,015万2,000円 1,025万円 1,025万円
所得税(税額控除前) 181万4,160円 184万6,500円 184万6,500円
認定NPO法人等寄附金特別控除 0円 3万9,200円 0円
寄附金による減税効果額 3万2,340円 3万9,200円

※社会保険料:190万円、生命保険料控除:4万円、扶養控除:38万円、基礎控除:48万円と仮定

3.年収2,500万円(累進税率40%)の場合

項目 所得控除を選択した場合 税額控除を選択した場合 (参考)
寄附金を支出しなかった場合
総所得金額(給与所得) 2,305万円 2,305万円 2,305万円
所得控除額※ 340万円 340万円 340万円
所得控除(寄附金控除) 9万8,000円 0円 0円
課税総所得金額 1,955万2,000円 1,965万円 1,965万円
所得税(税額控除前) 502万4,800円 506万4,000円 506万4,000円
認定NPO法人等寄附金特別控除 0円 3万9,200円 0円
寄附金による減税効果額 3万9,200円 3万9,200円

※社会保険料:250万円、生命保険料控除:4万円、扶養控除:38万円、基礎控除:48万円と仮定

4.年収5,000万円(累進税率45%)の場合

項目 所得控除を選択した場合 税額控除を選択した場合 (参考)
寄附金を支出しなかった場合
総所得金額(給与所得) 4,805万円 4,805万円 4,805万円
所得控除額※ 292万円 292万円 292万円
所得控除(寄附金控除) 9万8,000円 0円 0円
課税総所得金額 4,503万2,000円 4,513万円 4,513万円
所得税(税額控除前) 1,546万8,400円 1,551万2,500円 1,551万2,500円
認定NPO法人等寄附金特別控除 0円 3万9,200円 0円
寄附金による減税効果額 4万4,100円 3万9,200円

※社会保険料:250万円、生命保険料控除:4万円、扶養控除:38万円、基礎控除:0円と仮定

所得税に関する所得控除と税額控除の有利選択の目安

通常、所得控除を選択する場合においては、累進税率を加味する前の段階で寄附金控除額が控除されてしまいます。つまり所得控除後(寄附金控除適用後)の課税総所得金額に対して累進税率が適用され所得税が算出されることから、実際の減税効果額については「(寄附金の額-2,000円)×累進税率」となります。

一方、税額控除を選択する場合は、寄附金特別控除額が所得税から直接控除されることが特徴です。計算の順番としては、まず累進税率を適用した所得税が算出されそこから控除されるため、実際の減税効果額と寄附金特別控除額が一致します。そのため年収で比較すると所得控除については寄附金の額が同じであっても年収が高いほど減税効果が高くなるのです。

しかし税額控除については「年収に左右されることはない」ということが分かります。どちらを選択するのが有利なのかを考える際の目安については「年収に対して適用される累進税率が40%以下かどうか」です。つまり40%以下であれば税額控除を選択したほうが減税効果額は大きくなります。ただし「政党等寄附金特別控除」の支出は、累進税率30%以下が目安となることに注意が必要です。

通常であれば「減税効果においては税額控除のほうが有利となる」という考えが主流となります。しかし適用される累進税率が高い高所得者や税額控除を受ける際の限度額(所得税額の25%)を超えるような高額の寄附を行った場合については、所得控除を選択するほうが有利となるケースもあるのです。寄附金控除における所得控除と税額控除の選択は、単に税額控除の有利さを過信してはいけません。

実際に計算してみて優位なほうを選択することが大切です。なお確定申告の際に所得控除を選択し、あとで計算してみた際に税額控除のほうが減税効果は高いことが判明した場合でも、その後に選択方法の変更は認められません。

<所得控除、税額控除の選択の目安>

所得控除(寄附金控除) 寄附金の額が同じであっても年収が高いほど減税効果が高くなる
税額控除(寄附金特別控除) 累進税率が40%以下であれば減税効果額が大きくなる

忘れてはいけない個人住民税における寄附金税額控除

個人住民税において寄附金に係る所得控除の規定がないため、以下のものは住民税の計算において寄附金税額控除の適用を受けることはできません。

・ 都道府県・市区町村に対する寄附金(いわゆる「ふるさと納税」)
・ 住所地の都道府県共同募金会
・ 日本赤十字社支部に対する寄附金
・ 都道府県・市区町村が条例で指定する寄附金

ただし、以下の計算式で算出された金額が寄附をした翌年の住民税から控除されることになっています。

(寄附金(総所得金額等の30%が限度)-2,000円)×10%

個人住民税においては、所得税における寄附金控除や寄附金特別控除の対象となる寄附金であったとしても必ずしも個人住民税における寄附金税額控除の対象となるわけではありません。そのため詳細について自治体の公式サイトなどで事前に確認しておくことが大切です。なお、「ふるさと納税」(総務大臣が指定する自治体への寄附に限る)の場合は、特例控除額も税額控除されることになっています。

このように寄附金においては、所得控除や税額控除のほか個人住民税においても減税効果が期待できるものもあるため、確定申告の際には忘れないように注意してください。

確定申告しないと控除を受けられない

寄附金控除、そして寄附金特別控除を受けるには確定申告を行う必要があります。それぞれの方法や必要書類などのほか、注意点についても合わせて解説します。

寄附金控除の確定申告の方法

1.記入方法
確定申告書Aの場合:寄附金控除の欄に計算した控除金額を記入し、第二表にある「寄付金控除に関する事項欄」に、寄附先の所在地・名称を記入し、寄附金の合計額を記入します。さらに、用紙下方にある「住民税に関する事項」の寄附金税額控除欄に、それぞれの内訳を記載します。
確定申告書Bの場合:寄附金控除欄に計算した控除金額を記入し、第二表の「寄付金控除に関する事項」寄附金控除欄に、寄付先の所在地・名称を記入し、寄附金の合計額を記入します。そして、用紙下方にある「住民税・事業税に関する事項」の寄附金税額控除欄に、それぞれの内訳を記載します。

2.必要書類

・ 寄附した団体などから交付された寄附金の受領証
・ 特定の公益法人や学校法人などに対する寄附や、一定の特定公益信託の信託財産とするための支出については、その法人や信託が適格であることなどの証明書または認定証の写し
・ 政治献金については、選挙管理委員会等の確認印のある「寄附金(税額)控除のための書類」

3.注意点
寄附金控除はどの団体に寄附しても認められるわけではなく、寄附金控除の対象として認定された団体である必要があります。したがって、寄附金控除の対象となるのかを事前に公式サイトなどで確認しておきましょう。

寄附金特別控除の確定申告の方法

1.記入方法

政党等寄附金の場合:「政党等寄附金特別控除額の計算明細書」にて該当する欄に金額を記入し、控除額を算出します。次にその額を確定申告書第一表の政党等寄附金等特別控除欄に転記します。そして第二表の「特例適用条文等」の欄には「措法41の18」と記入します。

認定NPO法人等寄附金の場合:「認定NPO法人等寄附金特別控除額の計算明細書」にて該当する欄に金額を記入し、控除額を算出します。その額を確定申告書第一表の政党等寄附金等特別控除欄に転記します。そして第2表の「特例適用条文等」の欄には「措法41の18の2」と記入する。

公益社団法人等寄附金の場合:「公益社団法人等寄附金特別控除額の計算明細書」にて該当する欄に金額を記入し、控除額を算出します。そして、その額を確定申告書第一表の政党等寄附金等特別控除欄に転記します。さらに第二表の「特例適用条文等」の欄に「措法41の18の3」と記入します。

複数の寄付金特別控除の適用を受ける場合は、確定申告書の第二表にある「特例適用条文等」の欄に当てはまる措法の情報を、適用を受ける控除の内容分入力する必要がありますので、漏れのないようにしてください。

2.必要書類

政党等寄附金の場合:「政党等寄附金特別控除額の計算明細書 」と、政党または政治資金団体を経由して交付された総務大臣または都道府県の選挙管理委員会の確認印がある「寄附金(税額)控除のための書類」を合わせて提出します(「寄附金(税額)控除のための書類」が間に合わない場合は、寄附金の受領書の写しを添付して確定申告を行い、後日「寄附金(税額)控除のための書類」を税務署に提出します)。

認定NPO法人等寄附金の場合:「認定NPO法人等寄附金特別控除額の計算明細書」に合わせて、寄附金を受領した認定NPO法人等から交付された次の事項を証する書類で寄附者の氏名及び住所の記載があるものを提出します。

* その寄附金を受領した旨及びその受領した年月日
* その寄附金の額
* その寄附金がその認定NPO法人等の特定非営利活動に係る事業に関連する寄附である旨
* その寄附金を受領したその認定NPO法人等の名称

公益社団法人等寄附金の場合:「公益社団法人等寄附金特別控除額の計算明細書 」と合わせ、寄附をしたときにその公益社団法人から受け取った寄附金受領証明書の原本(以下の内容が記載されていることが必要となります)

* その寄附金を受領した旨及びその受領した年月日
* その寄附金の額
* その寄附金がその法人の主たる目的である業務に関連する寄附である旨
* その寄附金を受領した法人の名称

3.注意点

寄附金特別控除の場合は寄附金の上限が寄付金控除と異なる点に注意が必要です。「政党等寄附金」、「認定NPO法人等寄附金」そして「公益社団法人等寄附金」の合計額は原則として所得金額の40%相当額が限度となっていますが、「政党等寄附金」の特別控除額はその年分の所得税額の25%相当額が限度となっており、「認定NPO法人等寄附金」と「公益社団法人等寄附金」の特別控除額の合計額はその年分の所得税額の25%相当額が限度となります。

寄附金控除が受けられる方法

寄附金控除を受けることができる寄附には、上で紹介した寄附金以外にも以下のものがあります。

エンジェル税制

エンジェル税制とは、ベンチャー企業への投資を促進するためにベンチャー企業へ投資を行った個人投資家に対して税制上の優遇措置を行う制度です。ベンチャー企業に対して、個人投資家が投資を行った場合、投資時点と、売却時点のいずれの時点でも税制上の優遇措置を受けることができます。優遇措置の内容には以下のものがあります。

1. 設立5年未満の企業への投資を行った場合
(対象企業への投資額-2,000円)がその年の総所得金額から控除できます。控除対象となる投資額の上限は、総所得金額×40%もしくは800万円のいずれか低い方となります。

2. 設立10年未満の企業への投資を行った場合
対象企業への投資額全額をその年の他の株式等譲渡益から控除することができます。控除対象となる投資額の上限はありません。

また、対象企業の株式売却により生じた損失を、その年の他の株式等譲渡益と損益通算することができ、さらにその年に相殺しきれなかった損失は、翌年以降3年にわたって順次株式譲渡益と損益通算を行うことができます。

チケットの払戻請求権の放棄

2020年は新型コロナウイルス感染症の拡大による政府の自粛要請のため、各種イベントが中止や規模縮小となりました。その際、2020年2月1日から2021年1月31日までに開催、または開催予定であったイベントや公演のチケットを払い戻さないという選択をした人については、その金額分について寄附をしたとみなす制度が新設されました。

制度の流れとしては、まず主催者からの申請に基づき、文化庁・スポーツ庁が対象イベントを指定し、その後、参加者が対象イベントの主催者に払戻しを受けないことを連絡します。すると主催者から、「指定行事証明書」と「払戻請求権放棄証明書」が送られてきます。この2点の書類を添付し、確定申告を行うことで寄附金控除を受けることが可能となります。

その際、主催者が認定NPO法人もしくは公益社団法人であれば、所得控除もしくは税額控除のどちらかから選択できることも覚えておきましょう。

ふるさと納税

ふるさと納税とは、自分の選んだ自治体に寄附を行った場合に、寄附額のうち2,000円を越える部分について、原則として全額が所得税と住民税から控除される制度です。ただし、所得によって寄附できる額に上限がある点に注意しましょう。

本来であれば寄付金控除を受けるためには確定申告を行う必要がありますが、ふるさと納税の場合「ワンストップ特例」という、ふるさと納税先の自治体数が5団体以内であり、ふるさと納税を行う際に各納税先の自治体に申請書を提出することで、確定申告を省略することもできます。ただし、このワンストップ特例を利用できるのは、本来であれば確定申告の必要がない人に限られますので、医療費控除やそのほかの所得があり確定申告が必要な場合は利用できませんので注意してください。

節税効果を大きくするために

寄附金控除を受ける際には、所得控除もしくは税額控除どちらを使う方がより節税効果が高くなるかをきちんと計算することはもちろんですが、申告の際には「それが寄付金控除の対象かどうか」を必ず確認するようにしましょう。

また、申告する内容によっては添付する書類が多くなることも考えられますので、申告の際には国税庁の公式サイトなどで事前に確認しておきましょう。実際の確定申告書の作成については、「国税庁 確定申告書等作成コーナー」を利用すると、予め選択した控除制度についてのみ入力が求められるため、簡単に作成することができますので、ぜひ活用してみてください。