大西 勝士
フリーランスの金融ライター(AFP、2級FP技能士)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。10年以上の投資経験とFP資格を活かし、複数のメディアで執筆しています。

2020年12月にサブリース新法が施行されました。サブリース業者とオーナーとのトラブルを防止するための規制ですがこれまでと何が変わるのでしょうか。今回は、サブリース新法のガイドラインのポイントやサブリースの問題点をわかりやすく解説します。

サブリース新法とは

2020年6月にサブリース新法(賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律)が公布されました。この法律には、サブリース事業における契約の適正化のために必要な規制が設けられており2020年12月15日から施行されています。サブリース新法の目的は、サブリース業者とオーナーとのトラブルを未然に防ぐことです。

国土交通省は、サブリース新法について規制対象や法違反となり得る具体的な事例を明示した「サブリース事業にかかる適正な業務のためのガイドライン」を公表しています。

サブリースの問題点

サブリースとは、サブリース業者が収益不動産を一括で借り上げる契約のことです。不動産オーナーにとっては「空室や滞納にかかわらず一定の家賃が保証される」「賃貸管理を一括してサブリース業者に任せられる」といったメリットがあります。一方近年では「保証家賃の減額」「業者から契約期間中の一方的な解約」「オーナーから解約できない」「修繕費用の取り扱い」などのトラブルも多く発生しています。

不動産は物件価格が高額となるため、サブリース契約でトラブルが生じた場合、オーナーに大きな損害を与えかねません。そのため国はサブリース契約後のトラブルを問題視しており金融庁や国土交通省、消費者庁などが注意を呼び掛けています。サブリースでトラブルが頻発している理由は、契約を締結する際にサブリースのメリットだけが先行しリスクの説明が不十分なことが主な原因と考えられます。

「オーナー保護」という観点からサブリース事業の業務適正化を図るためにサブリース新法が公布・施行されることになりました。

サブリース新法のガイドラインのポイント

国土交通省が公表している「サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン」のポイントには以下のようなものがあります。

規制対象となる勧誘者の明確化

同ガイドラインでは、サブリース契約の不当勧誘等の規制対象となる「勧誘者」が明確化されました。勧誘者は「サブリース業者がマスターリース契約(サブリース契約)の締結についての勧誘を行わせる者」と定義されており具体的には、主にサブリースの勧誘を行う以下の者が該当します。

* 賃貸住宅の建設を請け負う建設業者
* 賃貸住宅や土地等の売買の仲介を行う不動産業者
* 特定のサブリース業者から紹介料を受け取ってサブリース契約を勧める不動産オーナー

サブリース業者でなくても、勧誘者に該当すれば規制対象となる点に注意が必要です。

禁止される誇大広告・不当勧誘の明確化

同ガイドラインでは、禁止される誇大広告や不当勧誘の事例も明確化しています。サブリース契約に関する広告においてメリットのみを強調してリスクの説明を小さく表示するなどの行為が行われると広告内容の真偽を判断するのは困難です。またサブリース業者や勧誘者が誤った情報による勧誘や強引な勧誘などを行うと相手は適切な意思決定ができなくなるでしょう。

契約内容を誤認したままサブリース契約を締結すると大きな損害を被る可能性があります。具体例は、それぞれに以下の通りです。

・誇大広告の例

「家賃保証」「空室保証」などの文言がある箇所に定期的な家賃の見直しや減額される可能性があることが表示されていない

・不当勧誘の例

サブリースのメリットのみを伝え家賃減額リスクや契約期間中のサブリース業者からの契約解除の可能性などの説明がない

このような誇大広告・不当勧誘を行うとサブリース新法の規定に違反することになります。

オーナーに説明すべき家賃減額リスク等の内容の明確化

契約締結前に書面に記載して説明しなければならない主なリスク事項についても明確化されました。サブリース業者の中には、将来的に家賃の減額が生じる可能性があることや契約解除などの条件について十分な説明を行わず契約内容を誤認させたまま契約を締結しようとする悪徳業者も少なからず存在します。

不動産投資を始めようとする人が大きな損害を被ることのないようにリスクを適切に判断したうえでサブリース契約を締結できる環境を整えることが必要です。家賃減額リスクは主に以下のような内容を明確化することが必要になります。

* 家賃の定期的な見直しがあり家賃が減額される場合がある
* 借地借家法の要件を満たす場合は、契約条件にかかわらずサブリース業者が減額請求できる
* 家賃減額請求があった場合は、変更前の家賃決定要素などの事情を総合的に考慮し、協議により相当家賃額が決定される

また契約期間中の解約についての注意点は、以下の通りです。

* 契約期間中でもサブリース業者から解約される場合がある
* オーナーからの解約には正当事由が必要

これらの事項についてサブリース業者は太字や下線などで強調して重要事項説明書に記載し説明を行う必要があります。

規定に違反した場合の罰則・行政処分

サブリース新法第42条では、規定に違反したサブリース業者や勧誘者に対して「6ヵ月以下の懲役」「50万円以下の罰金」などの罰則が設けられています。また違反の内容に応じて「業務停止命令」「勧誘停止命令」などの行政処分も科されます。

サブリース新法が不動産投資に与える影響

サブリース新法が施行されたことは、オーナーや不動産投資を検討している人にとって一定のメリットがあります。誇大広告や不当勧誘の事例、家賃の減額や契約期間中の解約など説明が必要なリスク事項が明確化されたことでサブリース契約に関するトラブルの減少が期待できるでしょう。ただしサブリースの家賃の減額や契約期間中に解約されるリスクがあることに変わりはありません。

不動産投資でサブリースを利用するかどうかは、メリット・デメリットを理解したうえで判断する必要があります。

収益性の高い物件ならサブリースは不要

首都圏の駅近マンションなど収益性の高い物件であればサブリースを利用する必要性は低いかもしれません。サブリースを利用すれば空室リスクや家賃滞納リスクを回避することが期待できます。しかし保証賃料は相場よりも低く礼金や更新料はサブリース業者の収入となるため、家賃収入を最大化できない点はデメリットです。

賃貸需要が高いエリアの物件かつ短期間で次の入居者を見つけることができれば空室が発生しても収益への影響は小さいでしょう。サブリースを利用しなければ経営が成り立たない物件は、そもそも不動産投資に向かないと考えられます。これから不動産投資を始めるならサブリースが不要な空室リスクの低い物件への投資を検討しましょう。

サブリースの利用は慎重に判断しよう

サブリース新法が施行されガイドラインでは禁止される誇大広告や不当勧誘、説明が必要なリスク事項などが明確化されました。これによりサブリース契約の環境改善、悪徳業者・トラブルの減少が期待できます。ただしサブリースに「保証家賃の減額」「契約期間中の解約」といったリスクがあることは変わりません。

不動産投資でサブリースを利用する場合は、契約内容を十分に理解したうえで慎重に判断しましょう。