ビジネス書に特化した編集会社のサラリーマン・ライターを経て、資産運用や税務の分野を専門とするライターとして活動。自主管理で賃貸経営をする不動産投資家の顔も持つ。
個人投資家がスタートアップ企業に資金提供する「エンジェル投資」が国内でも徐々に存在感を増しています。エンジェル投資家とベンチャー企業をマッチングする「Angel Port」には、プロサッカー選手の本田圭佑氏をはじめ、出資を希望する成功者がずらりと並んでおり圧巻です。本記事では、彼らのエンジェル投資のモチベーションがどこからやってくるのかを探ります。
世の中には2種類のエンジェル投資家がいる
エンジェル投資家は、大きく「ダイレクト型」「クラウドファンディング型」の2種類に分けられます。
ダイレクト型
ダイレクト型のエンジェル投資家は、スタートアップ企業(ベンチャー企業)の事業の可能性や起業家の情熱などを自身で直接確認し出資を決断するケースが多い傾向です。投資規模は、百万円単位?千万円単位が中心。
クラウドファンディング型
クラウドファンディング型のエンジェル投資家は、株式投資型クラウドファンディングのサイトを経由して出資します。起業家と直接会う機会は少なくサイト上の情報などで出資を決断する傾向です。投資規模は、1口あたり十万円単位が中心。
「ダイレクト型」と「クラウドファンディング型」のエンジェル投資家では、属性やモチベーションが異なります。まずは「ダイレクト型」のエンジェル投資家の傾向を見てみましょう。
ダイレクト型のエンジェル投資の狙いは「社会へのインパクト」
エンジェル投資のメリットとしてよく挙げられるのは、出資の見返りに株式を所有しその後のIPO(新規株式公開)やバイアウト(M&Aなどによる売却)でハイリターンを得るというものです。しかし「ダイレクト型」のエンジェル投資家には、あてはまらないケースも少なくありません。なぜならダイレクト型のエンジェル投資家は、何かの分野で大成功を収め十分なお金を持っている人が多い傾向です。
そのためエンジェル投資でハイリターンを狙わなくても困ることはありません。例えば著名なエンジェル投資家には以下のような人たちがいます。
本田圭佑氏(プロサッカー選手)
山本敏行氏(Chatwork創業者)
家入一真氏(CAMPFIRE代表取締役)
山田進太郎氏(メルカリ代表取締役会長兼CEO)
青柳直樹氏(メルペイ代表取締役CEO)
川田尚吾氏(DeNA共同創業者) など
モチベーションの核がハイリターンではないとしたら彼らがエンジェル投資をする理由は何でしょうか。これについては、エンジェル投資家とスタートアップ企業のマッチングサイト「Angel Port」に掲載されている投資家のインタビュー集が参考になるでしょう。これらを踏まえて成功者がエンジェル投資する理由をまとめると以下のような内容になります。
・ほかの業界のことを知るきっかけになる
・上の世代にお世話になったことを下の世代に返したい
・起業家を通して社会にインパクトを与えたい など
「お金儲けを第一にするなら、スタートアップなんかに投資しません」(本田氏)
ダイレクト型のエンジェル投資家のモチベーションを理解するには2018年3月22日付の『日経ビジネス』の本田圭祐氏のインタビューも参考になるでしょう。同インタビューの中で本田氏は「お金儲けを第一にするならスタートアップなんかに投資しません」と述べ、もしリターン狙いなら「不動産とかアンパイじゃないですか」とも語っています。
またエンジェル投資をする理由については「世界にインパクトを与えるようなファウンダーに投資したい」という想いを披露。ちなみに最近の本田圭佑氏は、一人のエンジェル投資家の枠組みを超えプラットフォームをつくる活動にも精力的です。2020年11月、スタートアップ企業を本田氏が支援する仕組みとして「KSK Angel by WEIN挑戦者FUND」を立ち上げています。
本田氏と同様に「社会(または世界)にインパクトを与えたい」というタイプのエンジェル投資家としては、故・瀧本哲史氏も有名です。瀧本氏は、再生可能エネルギー分野のベンチャー企業として注目されるレノバの黎明期に出資した人物として知られます。瀧本氏は、日本でエンジェル投資が今ほどなじみのなかった2012年に東大伊藤謝恩ホールで行った講演会で次のように語っています。
「世の中を変えそうな人をたくさんつくって、誰がうまくいくかわからないけれども、そういう人たちに武器を与え、支援するような活動をしたほうが、実際に世の中を変えられる可能性は高いのではないか」
引用:瀧本哲史著「2020年6月30日にまたここで会おう 瀧本哲史伝説の東大講義」
クラウドファンディング型のエンジェル投資の狙いは「ハイリターン」
ここまでの内容でエンジェル投資家がスタートアップ企業に投資をするときのモチベーションの一端が垣間見えたのではないでしょうか。ただもう一方の「クラウドファンディング型」のエンジェル投資になると前提が変わってきます。例えば株式投資型クラウドファンディングで国内シェアトップといわれる「FUNDINNO」がベンチャー企業へ出資する投資家のメリットとして打ち出しているものは以下の4つです。
これは、そのままエンジェル投資家のモチベーションの構成要素と考えてよいでしょう。
2.IPOやバイアウトでハイリターンが可能
3.投資先企業の成長を見守ることができる
4.エンジェル税制で節税が可能
上記4項目と前出の「ダイレクト型」の投資モチベーション(「社会にインパクトを与えたい」など)と比べるとお金を出す動機がかなり違うことが分かります。
クラウドファンディング型のエンジェル投資家の半数は会社員
「クラウドファンディング型」のエンジェル投資家は、属性も変わってきます。投資額が10万円程度から始められ、ダイレクト型のような「大成功を収めたお金持ち」でなくても参画することが可能です。ではクラウドファンディング型まで広げた場合、実際にエンジェル投資家はどれくらいでしょうか。
独立行政法人経済産業研究所の「日本の起業家と起業支援投資家およびその潜在性に関する実態調査」では、さまざまな学歴や職種の全国の男女約1万人(18?80歳未満)がサンプルとなりました。対象の1万人のうちエンジェル投資家は468人です。約21人に1人がエンジェル投資家ということになります。
エンジェル投資家を世代別で見ると以下のグラフのように40代のボリュームがやや多いものの全世代バランスよく存在している傾向です。ちなみに男女比では6対4となっています。
また職種別で見るとエンジェル投資家の半数を会社員(パートタイム含む)が占めています。次に多いボリュームは専業主婦(夫)や無職です。クラウドファンディング型も含めるとエンジェル投資が一般の人にも一定割合で浸透していることが分かります。

どちらの種類のエンジェル投資か定義する必要も
ここでは、エンジェル投資家のモチベーションや属性などについて解説してきました。タイトルの「なぜ成功者のマネーは、エンジェル投資に向かうのか」に対する答えは以下のようになるでしょう。
「起業家を通して世界(社会)にインパクトを与えるため」
あるいは経験値を増やしたりほかの業界を知ることができたりすることなどがベンチャー企業への投資の動機となっていることもあります。
ただしエンジェル投資の種類は「ダイレクト型」「クラウドファンディング型」の2つです。一般の人が多く参画する「クラウドファンディング型」のモチベーションは「IPOやバイアウトによるハイリターン」が主体といえるでしょう。このように同じエンジェル投資でも種類が違えば傾向が変わります。時には、どちらを指しているのかを定義しながらエンジェル投資という言葉を使うのが賢明かもしれません。