丸山優太郎
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。おもに企業系サイトで執筆。金融・経済・不動産系記事を中心に、社会情勢や経済動向を分析したトレンド記事を発信している

「マンション投資をするならノーローン(全額自己資金)だと利息負担がないため有利」という考え方は、昔からあります。しかし本当にそうなのでしょうか。実は、不動産投資におけるノーローンには、多くのデメリットもあります。本記事では、ノーローンが不利になる理由と少ない自己資金で優良物件を購入する方法について解説します。

居住用と投資用ではローンの考え方が異なる

ローンは借金なのですが不動産を購入する場合、居住用と投資用ではローンの考え方が異なります。

・居住用マンションにおけるローン
自分が住むためのマンションを購入する場合は、ノーローンのほうが有利です。居住用の住宅は、収入を生み出すことがありません。給与収入が返済原資となるため、ノーローンは金利がかからない分だけ得になります。

・投資用マンションにおけるローン
投資用のマンションは、家賃収入を生み出すため、ローンの返済原資は給与収入ではなく家賃収入です。借り入れを行って購入した分の返済負担は、家賃収入と相殺することができます。つまり給与収入は生活費に回せるため「実質的なローンの負担感はない」という点がメリットです。ただし入居者がいることが前提になるため、東京都心など空室リスクの少ない物件を購入する必要があります。

住宅ローンで支払う金利は、生活費を圧迫しかねないため余分なコストです。しかし投資用マンションを購入する際に組んだローンの金利は、利益を生み出すための必要経費と考えることができます。

頭金10%とノーローンで5,000万円の物件を購入するとどちらが有利?

具体的に「頭金10%で購入する」「ノーローンで購入」といった2つのケースでどちらが有利になるかを比較してみましょう。

【モデルケース】物件価格5,000万円、家賃収入年180万円、諸経費年30万円

全額自己資金で購入 頭金10%で購入
購入価格 5,000万円
自己資金 5,000万円 500万円
借入額 0円 4,500万円
実質利回り (180万円-30万円)÷5,000万円=3%
自己資金利回り (180万円-30万円)÷5,000万円=3% (180万円-30万円)÷500万円=30%

どちらのケースでも家賃収入や諸経費は同じため、実質利回りはどちらも3%となります。しかし自己資金利回りで計算するとノーローンは実質利回りと変わらないのに対して借り入れを行った場合は500万円しか投じていないため、利回りが10倍の30%です。つまり借り入れを行って購入したほうが資金効率はよくなるのです。

このような不動産の投資方法を「レバレッジ投資」といいます。レバレッジは別名「てこの原理」と呼ばれますが少ない自己資金で大きな物件をてこを使って動かすことに似ていることから命名されました。上記の自己資金利回りが10倍になった例でいえば10倍のレバレッジを効かせたことになります。

ノーローンで事業の発展は難しい

マンションの複数経営で事業の拡大を目指す場合、ノーローンでは事業展開が不利になります。なぜ不利になるのでしょうか。同じ5,000万円の資産を持つノーローン派のオーナーと借り入れ派のオーナーが上記した5,000万円のマンションを購入した場合で考えてみましょう。ノーローン派のオーナーは、全額を購入資金に充てるため、次の物件を購入する余力はありません。

ノーローン派のオーナーが次に3,000万円のワンルームマンションを購入しようと考える場合、いつ購入できるかを考えてみましょう。例で挙げた年間150万円の純利益をすべて貯金したと仮定しても3,000万円÷150万円=20年かかることになります。たしかに借り入れに関するリスクはないですが20年間も利益機会を逸してしまうため、事業の発展は難しいといえるでしょう。

一方で借り入れ派のオーナーは、同じ資産5,000万円のうち500万円しか使っていません。そのため1件目の投資用マンションを購入した後も4,500万円の余力があります。手元資金に余裕があるため良い物件があればすぐに購入することも可能です。しかも4,500万円は銀行に残してあるため、融資も受けやすくなります。

出口戦略でも借入派が有利に

不動産投資では、出口戦略(売却)も重要です。ローンの支払いが終了すれば担保を解除することができるため、いつでも自由に売却することができます。出口戦略においてノーローン派と借り入れ派はどちらが有利になるでしょうか。新築時5,000万円で購入した物件も30年経過すれば中古マンションとなり資産価値は減少します。仮に売却時30%減少している場合は、3,500万円が時価です。

先の例で挙げたノーローン派のオーナーは、5,000万円の物件を全額自己資金で購入したため、売った場合は1,500万円損することになります。一方頭金10%で購入したオーナーは、500万円しか投じていないため、物件の価値が下がった場合でも30年後投資用マンションの借り入れが完済していれば3,000万円の利益です。

ただしノーローン派のオーナーは、ローンの返済がなかったため、年間家賃収入150万円×30年=4,500万円の貯金が残ります。両者を比較した結果は、以下の通りです。

・ ノーローン派:4,500万円-(5,000万円-3,500万円)=3,000万円
・ 借り入れ派:3,500万円-500万円=3,000万円

最終的な利益はどちらも同じです。しかし借り入れ派は10分の1の自己資金でノーローン派と変わらない効果をあげたことになります。借り入れ派は、5,000万円の資産のうち銀行に4,500万円残してあるため、売却時の総資産は3,500万円+4,500万円=8,000万円で両者とも同じです。ここまで見たようにノーローンでマンションを購入することは決して損ではありません。

しかし次の物件の購入時期が遅れたり手持ちの運用資金に余裕がなくなったりするという意味では、借り入れで運用する場合よりも不利といえるでしょう。ビジネスパーソンが副業で行う場合は別として事業としてマンション経営を行う場合は、融資を有効に活用したほうが効率的です。自分の経営方針を明確にしたうえで判断することが求められます。

※計算例は一例のため、参考までにお考えください。

自己資金500万円で都心の好立地物件を購入できる

自己資金500万円で5,000万円の物件を購入する例を紹介しましたが東京都心の好立地でも該当する物件を購入することができます。ここまで見た収支例は、空室がないことを前提にしたシミュレーションです。都心5区(千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区)と呼ばれるエリアは東京の中心にあり交通網が充実しています。

ビジネスやレジャー、住宅のいずれの分野でもトップクラスといわれる人気のエリアです。利便性を重視するユーザーの需要は、常に旺盛のため、空室リスクが小さく不動産投資には理想的なエリアといえます。では、どのような物件が買えるのでしょうか。インターネットの不動産広告からピックアップしてみます。

▽5,000万円前後で買える都心5区の新築マンション価格例

エリア 最寄り駅 価格 専有面積
千代田区 「浅草橋駅」徒歩3分 4,700万円台 34平方メートル台
中央区 「月島駅」徒歩3分 4,300万円台 31平方メートル台
港区 「新橋駅」徒歩6分 4,800万円台 27平方メートル台
渋谷区 「恵比寿駅」徒歩4分 5,150万円 30.25平方メートル
新宿区 江戸川橋駅歩4分 4,450万円 31.01平方メートル

ワンルームマンションは、駅近の物件でも5,000万円前後で購入できる物件が多数あります。駅歩3~6分の好立地であれば安定して入居者の確保が期待できるでしょう。中古マンションであれば同じ価格でファミリーマンションの購入も検討できます。融資をうまく活用すれば都心5区の好立地マンションを購入することは決して高いハードルではありません。

もちろんマンション経営に対するオーナーの方針はさまざまです。そのため借り入れをせずに悠々自適に家賃収入で暮らしたい場合は、ノーローンで購入しても問題ありません。大事なことは、良い物件と出会ったときに投資機会を逸しないことです。頭金が10%しかなくても購入できる場合があるため、良い物件を見つけたら不動産会社に気軽に相談してみるとよいでしょう。